家の性能 徹底解説

2019.09.06

耐震性能はどこまで必要?地震対策の基礎知識|耐震等級の裏話【地震・災害・シロアリ対策③】

南海トラフの危険性が高まっていますので、地震対策についての正しい知識を身に付けていきましょう。まず、以下基本知識を学んでいきましょう。

・現在の建築基準法で、地震による家屋倒壊数は意外と少ない
・耐震等級2・3でも、設計士次第で、弱い家になることがある
・耐震等級1でも、設計士が優秀であれば強い家になる
・地震よりも、大きな死亡リスクがある

設計士で差がつく耐震性能|地震対策と耐震等級の裏話

目次

日本の地震事情 基本知識

・現建築基準法(2000年以降建築)で、地震による家屋倒壊の数は意外と少ない

以下、熊本地震の家屋倒壊状況データです。(赤:全壊、オレンジ:大破)1981年と2000年に建築基準法の改正ごとに、被害確率が下がっているのが分かります。2000年以降に建築された家は、7棟が全壊、12棟が大破したということです。

<熊本地震 益城町中心部における木造建築物の建築時期別倒壊状況>
熊本地震 益城町中心部における木造建築物の建築時期別倒壊状況
(出典:国土交通省)

2000年以降の家が倒壊した地震は、熊本地震のみで、東日本大震災では、地震の揺れによる倒壊はなかったとされています。つまり、2000年以降に建築され、直近約20年間で地震によって全壊した家は7棟、全壊・大破した家は19棟ということです。

この数字をあなたは、どう見ますか?確率的に見ると、年に1棟以下しか全壊・大破していないので、交通事故(年間3,500人死亡)等のリスクより、かなり低い数値と言えます。

<交通事故死者数の推移>
交通事故死者数の推移
(出典:静岡新聞)

 

・耐震等級2・3でも、設計次第で、弱い家になることがある

耐震性に大きな影響を与えるのに、耐震等級の項目に含まれていない要素があります。それは、「直下率」「シロアリ対策」「気密性能」です。直下率は後で詳しく解説しますが、1階と2階の壁や柱の一致率を指します。直下率が低いと、強度・コスパ・気密性などに悪影響がでます。

また、どれだけ強い設計にしても、構造材がシロアリ被害を受けてスカスカになっては意味がありません。阪神淡路大震災で倒壊した家屋のほとんどが、シロアリ被害に合っていたというデータがあります。

さらに、気密性能が低いと、壁内結露を誘発し、壁の中の構造材が腐るリスクが高まります。シロアリ対策と気密性能は別記事でまとめていますので、確認してください。

 

<阪神淡路大震災の家屋倒壊とシロアリ被害の関連性>

シロアリ被害は耐震性能を落とす

(出典:阪神・淡路大震災調査報告編集委員会)

 

・耐震等級1でも、設計士が優秀であれば強い家になる

耐震等級2・3では、耐震等級1では不要だった「構造計算」が義務となり、「耐力壁の強化」「基礎の強化」「床強度のチェック」「梁強度のチェック」「接合部のチェック増加」などが必要となります。ここで疑問がでてきます。「優秀な設計士だったら、耐震等級1でも、この条件をクリアした設計にするんじゃないの?」と。

その通り。優秀な設計士なら、耐震等級1であっても、自らこの条件を勝手にクリアします。なので、構造計算に出したところで「このままで耐震等級2でOK!」という結果が来るだけなので、構造計算費用・耐震等級申請費用(数十万円)が、無駄になります。(保険費用減額など、多少メリットはありますが…)

つまり、耐震等級2・3の取得は、設計士の腕前に不安がある場合に役に立つことは間違いありません。しかし、優秀な設計士の場合には、無理に耐震等級2・3を取得しなくても大丈夫です。

後で解説する設計ポイントを理解し、クリアしてくれる設計士であれば、耐震等級1でもいいですし、不安があるようなら、耐震等級2の取得をオススメします。

<耐震等級1と2の違い(左:等級1、右:等級2)>

耐震等級1と耐震等級2の違い
(出典:ホームズ君.com)

 

・地震よりも大きな死亡リスク

地震による家屋倒壊よりも、圧倒的に確率の高い死亡リスクへの備えが、足りていません。地震対策だけに過度にお金を掛けるのではなく、リスクの高い死亡下人への備え(定期的な健康診断など)にバランスよく費用配分する方が、賢い選択と言えます。

・交通事故 年間3,500人以上
・ヒートショック 年間15,000人以上
・自殺 年間20,000人以上
・胃がん 年間30,000人以上
・大腸がん 年間48,000人以上

<自殺者数の推移>

自殺リスクは地震で命を落とすリスクよりはるかに高い
(出典:朝日新聞デジタル)

【結論】ちょうどいい塩梅の『地震対策』とは?

ちょうどいい塩梅の「地震対策」は以下の通りです。

■設計士の能力に不安がある場合
①耐震等級 ⇒ 等級2
②直下率 ⇒ 壁直下率50%以上(プラン時)
⑦免震・制震装置 ⇒ 無

 

■設計士が信頼できる場合
①耐震等級 ⇒ 等級1
②直下率 ⇒ 壁直下率50%以上(プラン時)
③壁量充足率 ⇒ 1.5倍以上
④壁率比 ⇒ 0.5以上
⑤耐力壁線間距離 ⇒ 8m以内
⑥床組 ⇒ 剛床工法(四方釘打ち)
⑦免震・制震装置 ⇒ 無

 

①耐震等級とは?

建物の構造の強さの目安で、地震に対する倒壊のしにくさを表す指標です。等級1〜3の3段階で示されます。ネットを調べれば情報はたくさんありますので、簡単に説明ておきます。

・等級1
建築基準法に定められた最低基準と同等で、数百年に一度発生する地震でも、倒壊しない強さ。

・等級2
数百年に一度発生する地震の1.25倍の力の地震でも、倒壊しない強さ。

・等級3
数百年に一度発生する地震の1.5倍の力の地震でも、倒壊しない強さ。

<耐震等級>
耐震等級の概要
(出典:LIXIL HP)

 

設計士に不安がある場合は「耐震等級2」・信頼できる場合は「耐震等級1」を推奨する理由

冒頭にも述べましたが、設計士に不安がある場合は、迷わず「耐震等級2」を取得してください。耐震等級1「ぎりぎり」の設計だと、外部からのチェックが甘く、構造的に弱い家が建ってしまうリスクが高まるためです。

一方、優秀な設計士にとって「耐震等級2」クラスの強度を持つ設計をするのは簡単なので、わざわざ構造計算費用と耐震等級申請費用の数十万円を払ってまで、耐震等級2の「お墨付き」をもらう必要はないと考えます。

よって、耐震等級1にした上で、②直下率/③壁量充足率/④壁率比/⑤耐力壁線間距離/⑥床組の要素をクリアしてもらってください。②~⑥の要素をクリアすることは、優秀な設計士であれば簡単なことです。

<木造住宅の構造計算費用の目安>※3階建ての構造計算は義務

構造計算費用の目安
(出典:一級建築士事務所 諸富設計)

 

耐震等級3ではなく、耐震等級2(取得もしくは同等の強度設計)を推奨する理由

耐震等級3にすると、コストも上がり、間取りの制限が増えるからです。地震対策を何より最優先に考えるのであれば、耐震等級3もありですが、前述の通り、地震で家が倒壊するリスクは低いので、過度にお金を掛けるべきではないと考えています。

大手ハウスメーカーは「認定制度」という裏技を使って、一棟一棟申請しなくても、耐震等級3が取得できる仕組みになっていますので、あえて等級2に下げる必要はないかと思います。

ただし、南海トラフで震度7が想定されている地域において、耐震等級3を検討する価値は、他地域より高いと言えます。

 

<南海トラフ大地震による震度予想>
南海トラフ地震の震度予測
(出典:国土交通省)

 

「ほとんどの専門家が耐震等級3を必須と言っているじゃないか!」に対して

確かにインターネットで見ると、「耐震等級3は必須!」と主張する専門家が多いですね。もちろん、耐震等級3は悪いことではないので、予算と間取りに納得できそうなら、取り組んでください。グッシンは、等級3を否定しているわけではなく、等級3は必須ではないという考えです。

「耐震等級3必須派」の専門家が根拠にしているデータは、以下、熊本地震での耐震等級別倒壊データです。調査対象となった平成12年6月以降の家の総数は319棟です。(等級1:301、等級2:2、等級3:16)

<熊本地震 益城町における耐震等級別の倒壊状況>
熊本地震における耐震等級別の家屋倒壊データ
(出典:国土交通省)

確かに、耐震等級3の家は倒壊していません。しかし、耐震等級3必須の根拠として、このデータを用いるのは不適切です。理由は以下の通り。

・母数が少ない
等級3の棟数が16棟なので、統計的に母数が少なすぎます。

耐震等級2(壁量充足率は耐震等級3相当)の家が倒壊したという記事がありますが、これがもし耐震等級3を取得していて倒壊したならば、耐震等級3の家の倒壊確率は1/17=5.8%となり、耐震等級1の倒壊率(2.3%)より高くなります。

つまり「耐震等級3の家の方が倒壊しやすい」と言う結論になってしまいます。これは、もちろんあり得ません。16という母数は、分母が1変わっただけで、結論が逆転してしまうほどの少ない母数ということです。統計的に考えると、この少ない母数で、物事を論じるのは不適切と言えます。

・倒壊原因の半数が施工不良
耐震等級1の家の倒壊7軒のうち、3棟が施工不良が原因とされています。図面通り施工されないならば、設計図面で認定を受けている耐震等級の意味がなくなってしまいます。施工不良が原因である倒壊データを、「設計強度」である耐震等級3の有用性に使うのは、不適切です。

<被害要因は、施工不良(現行規定の仕様となっていない接合部)が3棟>

熊本地震における家屋倒壊原因の半数が施工不良
(出典:国土交通省)

 

・耐震等級2の家が倒壊した記事と矛盾する
ちなみに、耐震等級2の家が倒壊したという記事が出ているのに、上記データには載っていない(倒壊した家7棟すべて耐震等級1とされている)点も少し腑に落ちません。

深く突っ込むことはやめておきますが、「耐震等級制度は有効だ!」と言う結論ありきで、このデータをが作られているのでは?と勘ぐってしまいます。

ということで、「耐震等級3は必須なのか?」という問いに対する誠実な答えは、「その答えを出せるデータが、まだ存在していないのでわからない」です。その上で、「耐震等級3を取得すべきかどうか?」というのは、人の数だけ意見があっていいと思っています。

<耐震等級2の家が倒壊したという記事>
熊本地震では耐震等級2でも倒壊していた
(出典:日経ホームビルダー)

 

「耐震等級3取得で地震保険が安くなるから、得じゃないか!」に対して

耐震等級取得で、以下の通り、地震保険が安くなります。耐震等級3なら50%、2なら30%、1なら10%です。2000万円くらいの家だと、耐震等級1と3で、30年間で30万円ほどの差が出ます。

つまり、30万円で耐震等級1から3にできればペイするということですが、少し難しいかなと思います。

<地震保険の割引制度>
地震保険の割引率
(出典:SBI損保)

 

②直下率とは?

直下率とは、1階と2階の壁や柱の一致率のことを指します。

直下率は、高ければ高いほど良いとされますが、直下率が高いほど間取りの自由度は失われていきます。直下率100%とは、1階と2階の間取りが全く同じということになりますので、賃貸住宅でもない限り無理ですよね?

なので、間取りの自由度を確保しながらも、意識するだけでクリアできる直下率の目安を理解してもらえればと思います。

家の強度を左右する直下率とは?
(出典:NHK)

先ほど紹介した「熊本地震で耐震等級2の家が倒壊した」という記事ですが、「直下率が低かったことが一つの要因ではないか?」という記載もありました。

もちろん、直下率が低かったことだけが倒壊原因であったわけではありませんが、倒壊の一因になった可能性は十分にあります。ところが、建築基準法に直下率のクリアすべき数値は規定されていませんので、自主的に意識しなくてはなりません。

<直下率の低い家が倒壊したという記事>

直下率が低いと耐震性能が落ちる

(出典:日経ホームビルダー)

 

「壁直下率50%以上(プラン時)」を推奨する理由

直下率の推奨数値に関しては、様々な意見があるので、正解はありませんが、実際に数百件のプランを設計する中で、壁60%以上をクリアしようと思うと、かなりの間取り制限を感じたのが正直なところ。

逆に、壁50%以上であれば、さほど間取りを制限しなくとも、意識するだけでクリアできる数値だと感じます。

次に、プラン時に意識する必要性についてですが、これは簡単で、間取りが決まってしまえば、家の直下率はほぼ決まるからです。間取りが決まった後に、直下率を向上させようと思っても、限界があります。

なので、3D間取り作成ソフトには、簡易的な直下率確認ツールが付属されていますので、そのツールで活用してください。ちなみに、柱の直下率に関しては、壁の直下率が高ければおのずと高くなりますので、まずは壁の直下率を意識してもらえればOKです。

<3D間取り作成ソフトの直下率確認ツール>
直下率は簡単に確認できる
(出典:安心計画)

 

「直下率の要望は、いつ言えばいいの?」に対して

間取りをつくる前に伝えるようにしましょう。間取りの構想段階から意識しないと、「壁直下率50%以上」をクリアすることは難しいからです。

まともなプランナーであれば、直下率のことくらい意識していますので、イラっとされるかもしれませんが、直下率を意識せずに間取りをつくるプランナーが2人に1人はいます。本当です。なので、施主自身のリスクヘッジのために、必ず直下率の要望を伝えるようにしましょう。

<直下率に疎い間取りプランナーはたくさんいる>
多くのプランナーが直下率のことを考えていない

③壁量充足率とは?

ザックリいうと、家を支える「耐力壁の量が十分か?」を確認する指標です。

各階のタテ・ヨコ両方向を1/4ごとに区切って、それぞれの両端の4つの部分の壁量を確認して・・・と計算していきます。下図の「側端部分①②③④」それぞれのの耐力壁が、十分に足りているか?ということを見ているわけです。

壁量充足率とは?
(出典:ホームズ君構造EX)

ただし、詳細は理解しなくても大丈夫です。『壁量充足率』とは、「家を支える壁の量を確認する指標なんだな!」ということが理解できていれば100点です。マニアックに知りたい方は、ネット上にたくさん情報がありますので、眺めてみてください。

壁量充足率を「1.5倍以上」にすべき理由

軽量屋根の場合の必要壁量充足率は、建築基準法ぎりぎりが1倍、耐震等級2が1.55倍、耐震等級3が1.86倍なので、「1.5倍以上」をクリアすれば、壁量充足率だけで見ると、おおよそ耐震等級2クラスの壁量となるためです。※他条件によっても数値は異なります。

当然ながら、一部のみではなく、すべての壁量充足率を「1.5倍以上」にする必要があります。2階建てなら、計8箇所です。(側端部分①~⑧)

壁量充足率の重要性
壁量充足率の重要性
(出典:ホームズ君構造EX)

 

住宅会社の中には、コストダウンのために1倍ぎりぎりを”シビアに”狙ってくる会社が存在します。「1倍ぎりぎり」でも建築基準法はクリアしているので違法ではないのですが、「1倍ぎりぎり」の図面は構造の専門家から見ると、あまりに不安に映ります。

なので、ちょうどいい塩梅の壁量充足率を求めていくことのメリットは、「構造に強い住宅会社を見つけることができる」というより、「やりすぎのコストダウンをする住宅会社を排除できる」点にあります。

もちろん予算が許せば、さらなる上を目指しても良いですが、地震対策に”絶対安心”はありませんし、壁量充足率だけ強化しても全体バランスが悪くなるだけなので、ちょうどいい塩梅に抑えておくのがオススメです。

<壁の配置判定表 ※「充足率」の欄が、壁量充足率です。>
壁量充足率の計算
(出典:ホームズ君.com)

「引き戸は地震に弱い?」に対して

引き戸が地震への弱さに直結するとは言い切れませんが、耐力壁を取りにくくなるのはその通りです。

開き戸であれば、耐力壁をとれないのはドアの部分だけで済みますが、引き戸にするとドアを引く部分にも耐力壁を取ることができません。一方、引き戸のメリットはなんといっても、空間を広く利用できることですよね?

<通常の引き戸>
体力壁をとれない通常の引き戸
(出典:パナソニック)

そこで、地震に強く&空間を広く利用したい!という方は、「アウトセット」の活用を検討してください。壁を確保した上で、引き戸のように空間を広く利用することができます。

アウトセットのデメリットは、壁から扉分の厚みが飛び出してしまうことですが、個人的には大きな支障はないかなと思います。あとは、上部にレールが来るのでデザイン的にどうか、程度でしょうか。

また、アウトセットの場合は、下部レールがなくなるので、レールの隙間にゴミが挟まることがなくなるというメリットもあります。プランナーに「耐力壁厳しいときは、アウトセットも検討できますよ」と伝えておくと、打ち合わせがスムーズです。

<耐力壁を確保できる「アウトセット」の引き戸>
耐力壁をとれるアウトセットの引き戸
(出典:楽天市場)

 

「絶対に、家の四隅に耐力壁が必要?」に対して

絶対ではありません。

四隅に耐力壁を入れておくと、X方向Y方向ともに壁量充足率がUPするので、数値は確かに良くなります。ただ、四隅に耐力壁入れなくても、①~⑥がクリアできていれば、大きな問題はありませんので、絶対ではないということです。

壁量充足率をUPさせるためには、四隅の耐力壁は効果的なので、それが「絶対に必要」という言葉に変わっていったのかもしれません。

ということで、「家の四隅に耐力壁」は、絶対に必要ではないが、できれば推奨という感じで考えておいてください。

家の四隅に耐力壁を確保することは、必須ではなく推奨
(出典:ナルミアドバンス)

 

④壁率比とは?

ザックリいうと、家を支える「耐力壁のバランスが適切か?」を確認する指標です。壁量充足率では壁の「量」を、壁率比では壁の「バランス」を確認することができるということです。

上下左右ともに、均等に耐力壁が配置されていることが理想的なので、壁率比は、1に近ければ近いほどバランスが取れているとされます。計算方法は簡単です。下図の場合で考えます。

壁率比は耐力壁のバランスをみる数値
(出典:ホームズ君構造EX)

①の壁量充足率が2、②の壁量充足率が1.5だとすると、1.5/2=0.75
③の壁量充足率が4、④の壁量充足率が1.5だとすると、1.5/4=0.375

①と②はバランスが良い(①と②の壁量充足率の数値が近い)ですが、③と④はバランスが悪いですね。

この場合、③の壁量充足率を落とすか、④の壁量充足率を上げる必要がありますが、④はちょうどいい塩梅の『壁量充足率』である【1.5倍以上】を超えているので、④を上げるより③を落とす方が良いかと思います。

耐力壁のバランスが大切

壁率比は「0.5以上」を推奨する理由

建築基準法では、「壁量充足率が1未満の場合でも、壁率比が0.5以上であれば、適合とする」と定められています。つまり、「量が足りない場合は、バランスがとれていればOKにするよ」ということなのですが、両方クリアしたほうが良いと思いませんか?

耐力壁は、量もバランスも大切で、総合的に強い構造を考える上では、”どちらかだけ”ではなく、”どちらも”クリアする必要があると考えます。

壁率比「0.5以上」を言い換えると、東西・南北の壁量充足率の比率を、1:2までのバランスにしてね、ということです。当然ながら、一部ではなく、すべての壁率比を「0.5以上」にする必要があります。2階建てなら、計4組の壁率比です。(側端部分①と②、③と④、⑤と⑥、⑦と⑧)

耐力壁のバランスは東西南北
耐力壁のバランスは東西南北
(出典:ホームズ君構造EX)

 

壁率比で、特に注意すべき箇所は、南北の壁率比です。

南はたくさん窓をとり、北はあまり窓をつけませんよね?窓を付けると、その部分は当然、耐力壁をとることはできません。なので、南の壁量充足率は低くなりがちで、北側の壁量充足率は高くなりがちです。

<南に窓が多いため、南北の『壁率比』は悪くなりやすい>
南北の壁率比(耐力壁のバランス)は悪くなりやすい

下図だと、⑤と⑥壁率比が要注意です。例えば、⑤の壁量充足率は1.2倍で、⑥の壁量充足率は4倍なんてことはよくあります。

この場合は、⑤の壁量充足率を1.2倍から1.5倍に上げ、⑥の壁量充足率を4倍⇒3倍以下に落とすことで、ちょうどいい塩梅の「壁量充足率」と「壁率比」を共にクリアすることができます。

耐力壁を増やすだけでなく減らすことも有効
(出典:ホームズ君構造EX)

「壁率比のために壁量を減らしても大丈夫?」に対して

確かに、壁量が減ると弱くなるんじゃないか?と思いますよね。それは分かります。

しかしながら、壁量を増やし過ぎると、家が堅くなりすぎて、力の逃げ場所がなくなります。もちろん、ある一定の壁量は必要なのですが、ただ多くすればいいというわけではありません。

耐力壁は、量だけでもだめで、バランスだけでもだめなわけです。なので、「耐力壁をとれる場所でできるだけとろう!」と考えるのではなく、全体バランスを見ながら、適切に耐力壁を配置していく”バランス感覚”を大切にしてください。

地震対策もバランスが大切

 

⑤耐力壁線間距離とは?

壁率比とともに、耐力壁のバランスに関する確認事項が、「耐力壁線間距離」です。

壁量充足率と壁率比で、耐力壁の量とバランスはほぼチェックできるのですが、唯一チェックできない部分があります。それは、建物の中央部です。下図のように、壁量充足率と壁率比は、外側1/4の部分のみを検討するため、色のついていない中央部の状況は、無視されていると言えます。

家の中央部の耐力壁が盲点
(出典:ホームズ君構造EX)

極端な話、家の外周部のみに耐力壁を配置すると、壁量充足率と壁率比はクリアできるのですが、家の中央部が弱くなってしまいますよね?そこで、「耐力壁線間距離」を活用します。

耐力壁と耐力壁の距離を一定距離以内に近く保つことで、家の中央部に耐力壁が全くないという設計を防ぐことができます。

耐力壁線間距離で家の中央部の弱さを防ぐ
(出典:ホームズ構造EX)

 

耐力壁線間距離は「8m以下」にすべき理由

耐震等級2(品確法関連規定)にて、耐力壁線間距離は「8m以下」が安全と規定されているためです。

 

<耐力壁線間距離の規定>
耐力壁線間の規定は8m以内
(出典:北海道建築技術協会)

 

構造の専門家に「耐力壁線間距離の理想は?」と聞くと、大抵「理想は4m以下だけど…」と言われます。

4m以下と言うと、畳の長さが約1.8mですから、畳2枚分事に耐力壁が必要ということです。もちろん理想を追っていただくのもいいですが、無理に「耐力壁線間距離」を4m以下にするあまり、閉鎖的で納得のいかない間取りにしてはいけません。大切なのは、いつもバランスです。

耐力壁線間距離の理想は4m以内だけど、現実的には8m以内が妥当

 

「ということは、8mも柱のない空間をつくれるの?」に対して

それは違います。8m以下はあくまで「耐力壁」の話なので、柱は必要です。

基本的に木造在来工法の場合は、2間(約3.6m:畳二枚分)ごとに柱を配置することが推奨されています。梁を太くするなどの対策をすれば、2間以上も柱無しで設計することも可能ですが、基本的には2間ごとに柱が必要と覚えておきましょう。

<幅が二間の和室>
木造住宅は、基本的に2間ごとに柱が必要

 

「広い空間をとりたいなら、鉄骨の方がいいのでは?」に対して

鉄骨には大きく分けて、重量鉄骨と軽量鉄骨がありますが、重量鉄骨であれば、いくらでも広い空間をとれます。コストupと断熱・気密性能downは避けられませんが、広い空間を最優先するなら、ありです。

一方軽量鉄骨だと、柱のない空間は4~5m程度が限界かと思いますので、木造とさほど大差ありません。重量鉄骨と同様、断熱・気密性能はdownします。

<軽量鉄骨造と重量鉄骨造>
軽量鉄骨は広い空間を作れない。重量鉄骨は広い空間を作れる。
(出典:家仲間コム)

 

⑥床組とは?

『床組(ゆかぐみ)』とは、床面を支える骨組みのことです。

「床?構造に関係あるの?」と思われるかもしれませんが、「床」も強い構造を作るためには重要な要素です。壁や柱などの、縦方向の強度だけではなく、床の横方向の強度と合わせることで、縦横にがっちり強い構造にすることができます。

床組には、二つの工法があります。

・根太工法
根太という部材に、薄い床下地合板を留めていく床組みです。

・剛床工法(ごうしょう)
根太を使わず、厚い床下地合板を直接梁材に留める床組。

<根太工法と剛床工法>
床組には、根太工法と剛床工法の2種類がある
(出典:住宅サポート建築研究所)

さらに、剛床工法の中にも、2つの工法があります。

・川の字釘打ち(サネ付き)
字のごとく、川の字に釘を打っていく工法です。

・四周釘打ち(サネ無し)
格子状に床梁を配置し、四周ぐるりと釘打ちを行う工法です。

<川の字釘打ち(サネ付き)と四周釘打ち(サネ無し)の違い>
剛床工法は、四周釘打ちにより床倍率が3倍になる
(出典:パナソニック)

 

床組は「剛床工法(四周釘打ち)」を推奨する理由

床の強さは「床倍率」という指標で表しますが、剛床工法(四周釘打ち)の床倍率は、根太工法の「3倍」。つまり、剛床工法(四周釘打ち)の方が、根太工法よりも「3倍」の水平方向の強度を持っているためです。

耐震等級1の場合は床倍率の規定がないのですが、剛床工法(四周釘打ち)にすることで、耐震等級2クラスの床倍率基準を簡単にクリアすることができます。

川の字型釘打ち(サネ付き)は、四周釘打ち(サネ無し)に比べて、強度が落ちるので推奨しません。

<剛床工法(四周釘打ち)の土台:910ピッチで格子状>
剛床工法の床組み
(出典:KANNO BLOG)

「ということは、吹き抜けは地震に弱い?」に対して

吹き抜けが「ある」と「ない」では、当然吹き抜けが「ない」方が強いです。吹き抜け部分には、水平面の強度を上げる床がありませんからね。

でも、だからといって吹き抜けが絶対だめとも言えません。LDKに吹き抜けを採用する場合は、以下ご確認を。まずAを検討 ⇒ Aが無理ならB、Bが無理ならC、Cが無理ならD、と検討を進めてみてください。

A LDK吹き抜けに階段を配置する
当然ですが、階段部分も吹き抜けですから、LDKの吹き抜けとは別の場所に階段を配置すると、家の2箇所に吹き抜けができてしまいます。となると、水平面の強度が下がってしまうので、LDKの吹き抜けに階段を配置できないか、検討してみましょう。

<LDK吹き抜けに階段を配置>
吹き抜けに階段を設置すると吹き抜けのデメリットが緩和される
(出典:リショップナビ)

B LDK吹き抜けと階段を斜め方向に配置する
斜め方向、つまりはす向かいの位置に設置することで、床の強度を保つことができます。良くないのが、LDK吹き抜けと階段の吹き抜けが同じ面に隣接する配置。吹き抜け⇒2階廊下⇒階段、という配置です。これは、避けるようにしましょう。

<悪い例:吹き抜けと階段が同じ面に配置されている>
階段と吹き抜けは斜め方向に設置するのがベター

C 吹き抜け部分に梁や火打(角っこに斜めにピッとつける部材)を設置する
これで、水平面の強度を上げることはできます。吹き抜けの解放感が損なわれたり、梁や火打ちにほこりがたまったりと、デメリットも含めて、検討してください。

<吹き抜けの梁>
吹き抜けに梁や火打ちを設置すると強度があがる

D 構造計算に出す
計算やチェックに費用を掛けるのは避けたいのですが、A・B・Cが難しい場合は、水平面の強度が担保され難いので、構造計算をおススメします。

⑦免震・制震装置とは?

免震装置と制震装置は、地震による建物の揺れを少なくする(と実験で証明されている)装置です。

・免震装置
建物と地面を切り離し、地震の揺れが建物に伝わらないようにする装置です。主に、ビルやマンションなどの高層建築物に採用されます。

・制震装置
建物が受けた振動エネルギーを吸収し、建物の揺れを小さく抑える装置。歴史が浅く、国の認定基準も存在していません。

免震・制震・耐震の違い
(出典:THK)

 

免震・制震装置を必須としない理由

まず、免震装置ですが、歴史も実績もあり、とても良い装置と思います。ですが、価格が高すぎます。最低でも数百万円はします。2~3階建ての戸建て住宅に導入すべき装置ではありません。

免震装置を導入する程の予算があるなら、少し広い土地を購入して平屋を建てましょう。その方が、地震対策としても他のメリット的にも、賢いです。

<本気の免震装置(データ改ざんで問題になりましたが…)>
データ改ざんで話題になってしまった免震装置(主にマンション棟に使われる)
(出典:THK)

次に、制震装置ですが、免震装置に比べて、価格は落ちるので導入しやすいと思います。ですが、効果があまりに未知数と感じます。様々な意見がある議論なので、これはあくまで個人的見解です。

なぜかというと、制震装置メーカーが様々な実験をしてその効果を”実証”していますが、その実験の条件が製品の効果が出やすいように設定されていたり、実際の大地震の揺れを再現できているのか怪しかったり…と、信ぴょう性に欠けるものが多いからです。

ないよりあったほうがいいのかな~とは思いますが、費用をかける優先度は低いかなと。まずは、効果が確実な窓・断熱・気密・換気システムにお金を掛けたほうが、費用対効果は高いと考えています。

 

「建物の揺れを少なくする上で、屋根の選び方の注意点は?」に対して

屋根は、軽い方が地震に強くなります。説明するまでもないですが、地面から離れた高い場所に重いものがあれば、建物は不安定にいなります。主要屋根材の重さを見てみましょう。

<屋根材の重さ比較>
屋根の重さ比較(瓦、スレート、ガルバニウム)
(出典:街の屋根屋さん千葉)

瓦は、汚れ対策の面では優れた材料でしたが、地震対策の面で考えると良くありません。一方、ガルバニウム鋼板は、瓦の1/10の重さのため、地震対策の面でも優れていると言えます。

地震対策としても、屋根材の選び方は重要なのですが、第二章「メンテナンス性能」にて、ちょうどいい塩梅の屋根材を「ガルバニウム鋼板」と規定しているので、ちょうどいい塩梅の地震対策としては、屋根材は取り上げません。

まとめ

ちょうどいい塩梅の「地震対策」は以下の通りです。

■設計士の能力に不安がある場合
①耐震等級 ⇒ 等級2
②直下率 ⇒ 壁直下率50%以上(プラン時)
⑦免震・制震装置 ⇒ 無

■設計士が信頼できる場合
①耐震等級 ⇒ 等級1
②直下率 ⇒ 壁直下率50%以上(プラン時)
③壁量充足率 ⇒ 1.5倍以上
④壁率比 ⇒ 0.5以上
⑤耐力壁線間距離 ⇒ 8m以内
⑥床組 ⇒ 剛床工法(四周釘打ち)
⑦免震・制震装置 ⇒ 無

プロデューサー紹介

master

日本の家づくり 強化ディレクター

瀬山 彰

筑波大学理工学群数学専攻卒(数理統計学士号)。硬式野球部に所属し、首都大学野球リーグの線形回帰分析を行う。中学高校の数学教員免許を取得。

筑波大学卒業後、日本最大手経営人事コンサルティング会社にて、全国ハウスメーカー・工務店を担当。住宅業界で手腕を振るう中、住宅業界の悪しき文化に疑問を覚え、家づくりの新たなスタンダードを確立することを目標に掲げる。

2015年、「家づくり せやま学校」を開校。“日本の施主を強くする”を合言葉に、施主の知識向上を目的とした講演活動をスタートさせた。「展示場では絶対教えてくれない話が聞けた!」「こんな楽しい授業は初めて!」など、口コミでせやま学校の評判が広がり、各メディアからも注目が集まっている。

関西を中心に年間100件以上の講演をこなしながら、雑誌コラムの連載やFMラジオ局「FMOH!」にて冠番組のDJを務めるなど、活躍の場を広げている。

中学高校数学教員免許、宅地建物取引士、2級FP技能士。3人娘(双子4歳、2歳)。広島県出身、広島カープファン。

【メディア出演】
◾️FMOH!85.1 毎週火曜19:00〜
「瀬山彰 NEXT STANDARD LIFE」
◾️子育て情報誌 「まみたん」対談連載
「THE PROFESSIONAL」

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